最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)263号 判決
本件において原審の確定した事実によると本件買収処分につき発せられた買収令書は昭和二十三年十一月二十七日に一旦被上告人等に手渡されたけれども、被上告人等所有の土地は茨城県東茨城郡上野合村大字上雨谷字坊子山八〇八番地であるのに右買収令書には大字名が鳥羽田と記載されてあつて、しかも上野合村大字鳥羽田にも字坊子山という土地があり、このようなまぎらわしい表示であつたので被上告人等の方では買収令書受領の印を押さず、その後昭和二十四年一月になつてから被上告人等に代つて岩瀬政外一名が県の係員に右の旨を申し出で交渉の結果、右係員は先の買収令書を破り棄て、新たに買収令書を作成し、地元村農地委員会を経由して同年二月二日に被上告人等に交付し、被上告人等は買収令書受領の印を押したというのである。そして右の如く買収令書の記載に誤りがあり、処分の相手方が正式受領を拒んでいる状態において権限庁が一旦交付した令書の返還を受けてこれを破棄し新たな令書を交付したような場合には初めの買収令書に基く買収処分を撤回し、後の買収令書により買収処分を実施したものと解するのが相当であるから右と同一趣旨に出でた原判決の判断は正当であり右撤回が適法に行われなかつたことを前提とする論旨はいずれも理由がない。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)
上告代理人増田弘の上告理由
第一点
原判決は「最初の買収令書が被控訴人等(被上告人等)に交付されたのは昭和二十三年十二月二十七日であつたことは原審証人岩瀬好治の証言によりこれをうかがい得るばかりでなく控訴人自ら同日であることを認めて居るのであるから同日であるとなすの外ない」とし乍ら「控訴人(上告人)はたとえ右の買収令書記載の土地の大字名が間違つていたとしても被控訴人等(被上告人等)は右の買収令書の交付により本件買収処分のあつたことを知つたものとなすのが相当であると主張して居るようであるが、自作農創設特別措置法による農地等の買収処分は買収令書の交付によつてなされるのであるから、本件のように、当初の買収令書には目的土地の記載に誤りがあり、権限ある係員がその返還を受けて破りすて新たに買収令書を作成して交付したような場合には、前の買収令書による買収処分を一旦撤回し改めて後の買収令書によつて買収処分をしたものと認めるのが相当である」として、上告人の主張を排斥している。
けれども自作農創設特別措置法第四十七条の二には、「この法律による行政庁の処分で違法なものの、取消又は変更を求める訴は(中略)当事者がその処分のあつたことを知つた日から一ケ月以内に提起しなければならない」とあつて当事者が当該行政処分のあつたことを知れば足り、而してその知つた時から出訴期間は進行、計算さるべきことを明らかにして居る。
而も、同法による農地等の買収は卒然として買収令書の交付によつて行われるものではなく、買収計画の樹立、その公告、承認等所謂段階的に行政処分が行われるのであつて、その間に於て買収の目的たる農地等について異議訴願の道も開かれ訴願の裁決の後に於ても買収令書は交付されるものであることは茲に喋々を要しない。
被上告人等は夫々異議の申立、訴願の手続を経たことは自ら主張して居るところであつて、これに対して買収令書の受領方の通知があつたとすれば、当然に当該土地についての買収令書であることは一応自ら領承し得るところである。(昭和二十四年(オ)第一六一号判決参照)
而して、当該買収令書が、原審の言うように仮りに「撤回」されたとしてもその「撤回」されたことによつて、「知つた」と言う事実は抹殺されるいわれも筈もない。
要するに原審は前の買収令書を破り捨てたことに因つて買収令書が一旦交付されたと言う事実も「知つた」と言う知覚も一切抹殺されてしまうと考えたものであつて法律の解釈を誤つたか社会通念に反する違法がある。
第二点
原審判決理由によると「本件のように、当初の買収令書に目的土地の記載について誤りがあり、権限ある係員がその返還を受けて破りすて新に買収令書を作成して交付したような場合には前の買収令書による買収処分を一旦撤回し改めて後の買収処分によつて買収処分をしたものと認めるのが相当である」として居るが、一旦買収令書が買収計画に基いて発行され買収の相手方に交付されると、自作農創設特別措置法第十二条によつて、当該農地等の所有権は政府に帰して、買収処分は茲に完了する。従つて、その後に於て仮りに「権限ある係員がその買収令書の返還を受けて」それを「破つて」も既にして行われた買収処分は何等の影響なかるべき筈である。
改めて買収令書を作成交付したところで、前の買収令書の再発行としての効力は認められるが、これによつて前の買収処分そのものに消長を来すいわれはない。
従つて、「後の買収令書によつて買収処分したものと認めるのが相当である」場合は「前の買収令書」が無効である場合に限られるべきである。
原判決は「本件のように、目的土地の記載について誤りがあり」として「前の買収令書」の瑕疵を指摘しては居るが、目的土地の記載について例え誤りがあつたとしてもその誤りの程度が軽微であり、当事者が誤記であることを推認し得る場合に於てもその訂正を許されず、これを無効とすべき根拠はないのは今更論ずる迄もないのであるから、原審が後の買収令書によつて買収処分をしたものと認めるのが相当であると謂うのは、唯単に破つて捨て新に買収令書を作成したと言う事実に囚われて斯く謂うものであつて、その間原審は前の買収令書の効力に関して思いを廻らした形跡はない。即ち漫然、後の買収令書によつて前の買収令書の効力まで「撤回」されたと考えたものであつて、その間に審理不尽又は少くとも理由不備の違法がある。
この点に於て原判決は破毀を免れない。 以上